夜の海

日々呉と海田との往復をしております。そしてそれらは国道31号線という一本の道で繋がっています。
海田方面に向かう時、右を見ると自分は高校時代通学の為利用する側だったJR呉線が気持ち良さそうに僕の車を追い抜いていきます。
そして左を見ると大きくて、それでいて穏やかに広がる瀬戸内海が太陽の光を浴びながらきらきらとまるで微笑んでいるかのようです。
そして夜。当然今度は海田方面から呉に向かう訳ですが、今度は逆方向、つまり右手に瀬戸内海は見える訳です。運転をしながらではとてもゆっくり眺めるような余裕はなく、BGMをより効果的に胸に響かせる為にその演出をしてもらっているだけでした。
そういえば昔好きだった曲の歌詞に「夜の海は見えない 感じるものさ 今の二人に出来る事は ただ抱き合うだけさ」という歌詞があったのを思い出しました。ボリュームを上げ家路に向かいながらも、缶コーヒーでも飲もうかな・・・ついいつもの癖が出てしまいました。
ドライバー用にいくつもの自動販売機と休憩の為のスペースが取ってある場所が左手に見えました。車を止め、冷たい缶コーヒーを飲み干しながら思いました。「今年の夏は涼しいのかな?・・・」頬をなでる風はやさしく、まるで哀愁を帯びた秋の夜風のように涼しげに感じました。そしてその風の方向へ目をやると普段はきらきら微笑んでいる瀬戸内の海。島々にはまるで季節外れの蛍のようにオレンジ色の光が点滅しています。しかしそれ以外の空間は一面の夜空と溶け合い、時折光るオレンジ色の蛍の光だけが、目をやる方向の助けをしてくれます。
頭は少し冷たくなりがらも掌は熱くなり、鼓動は静かになり、心は穏やかになりました。大きく息を吸い込むとまるで空気でさへもとても上品なご馳走に思えます。そして見えそうで見えない夜の海を感じながら、聞こえそうで聞こえない波の音を感じながら、100円ちょっとのコーヒーで随分と平安な雰囲気を感じさせてもらっていたのでした。